「癒やされたいのは、体だけじゃない」“ダブルセラピスト”が描く、ジョフウの先鋭とやさしさ
2025.5.10 北村有
“女性用風俗”を舞台にした新ドラマ「ジョフウ ~女性に××××って必要ですか?~」5〜6話の内容を振り返る! 男性の風俗と、女性の風俗の目的はどこに違いがあるのか……。
“ダブルセラピスト”が描く、女性の“整え”かた

女性用風俗というセンシティブなテーマを扱いながらも、決して下世話に傾かず、あくまで“癒やし”と“尊厳”を主軸に物語を紡ぐドラマ「ジョフウ ~女性に××××って必要ですか?~」。6話では、これまでの流れを一歩進めるようにして、“ダブルセラピスト”という、ある意味で挑戦的な施術が描かれた。
男性ふたりに女性ひとり。言葉だけを並べれば刺激的にも聞こえるが、実際の描写は極めて落ち着いていて、むしろ丁寧だった。視聴者の間でも「癒やされるドラマ」という感想が目立つ。6話で描かれたのは、女性の欲望をただ肯定するのではなく「癒やされたい」という切実な感情とどう向き合うかというテーマだったように思う。
6話に登場した女性客は、職場では管理職としてバリバリ働くキャリア女性。だが「女性の管理職だから」と、しなくてもいい気遣いや折衝役を押し付けられ、セクハラにも笑顔で応じなければならない。本人が頑張れば頑張るほど「女であること」が邪魔をしてくる構造的な理不尽。これは彼女だけの物語ではなく、多くの働く女性が経験している“あるある”だろう。
そんな彼女が選んだのは「ダブルセラピスト」という施術。贅沢に見える選択だが、それは誰かに「抱かれたい」と思ったからではなく、ある意味“もう何も考えたくない”という心の悲鳴からくる選択でもあった。
セラピストふたりの温かな手と、無言で寄り添う優しさに包まれていくうちに、ふと「このために仕事、頑張れるわ」という言葉が漏れる。その瞬間、風俗とは“発散”ではなく“整え直す”場所なのかもしれないと思わされた。
性欲は、隠すものじゃない?

このエピソードは、前話(第5話)の流れとも地続きにある。第5話では、セックスレスに悩む女性が登場。「週2でしているならレスじゃない」と言われることに対し「私はもっとしたいと思っている。私の基準とズレていたら十分レス」と言い切る姿が印象的だった。
性欲に関しても、誰かのモノサシではなく、自分の感覚で語っていい。そんな当たり前のことが、いまだに“言いにくいこと”として扱われている現実がある。
女性の性欲が、これまで社会で見えにくくされてきたのは、慎ましさや恥じらいを美徳とする文化的背景があるからだろう。「ジョフウ」は、その背景を直接批判するのではなく、「そうじゃなくてもいいんじゃない?」という柔らかな態度で語ってくる。あくまで丁寧に、少しずつ偏見を剥がしていくように。
ダブルセラピストの施術シーンも、“快楽のための演出”ではなかった。ただ疲れている人に触れるように、あたたかく、やさしく、相手の緊張を解いていく手つきが印象的だった。それは“性的なサービス”というよりも、“人としての接触”に近いものだった。
男性の風俗と、女性の風俗一一違うのは“目的”より“欲求の輪郭”

「ジョフウ」を観ていて何度も考えさせられるのは、風俗とはなんのためにあるのか? という問いだ。
男性にとっての風俗は、性欲を満たす場所というイメージが根強い。一方で、ジョフウに登場する女性たちは「癒やされたい」「誰にも言えない疲れをとりたい」といった、性そのものではなく、心と体の調和を求めているように見える。
今回のダブルセラピスト回では、その差異がよりくっきりと浮かび上がっていた。ふたりのセラピストに体を預けながら、彼女は自分の“がんばり”を一旦手放していた。職場で、家庭で、“求められる役割”をこなすうちに失ってしまった“素の自分”を取り戻すような時間。“癒やしって、意外とこういうことなのかも”という気づきが、静かに生まれているように思う。
「誰かに大切にされたい」ではなく「自分が自分を大切にできるようになりたい」。そう思ったとき、人は癒やしを求める。ジョフウという空間は、そのための一時避難所のような役割を果たしているのだろう。
ダブルセラピストの回は、風俗の機能を“発散”ではなく“充電”として描いた点で、これまででもっとも先鋭的だったかもしれない。だが、それが不快にならなかったのは、やはり演出と描写の丁寧さ、そして“癒やされる側”の視点を何よりも大切にしていたからだ。
「このためにまた頑張れる」というセリフは、すべてを象徴している。女性用風俗とは、女性にとっても“誰かの欲望を満たす場所”ではなく、自分を取り戻すための選択肢のひとつ。その可能性を、ジョフウはこれからも描いてくれるのだろう。
ドラマチューズ!「ジョフウ 〜女性に××××って必要ですか?〜」(テレ東ほか)毎週火曜深夜24:30放送
ライター。2019年に独立。主に映画やドラマ関連のレビューやコラム、インタビュー記事を担当。主な執筆媒体はtelling, / ぴあWeb / CYZO ONLINE / TRILL / LASISAなど。映画館と純喫茶が好き。
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