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“私の子宮が恋をした”は是か非か?「子宮恋愛」松井愛莉が演じる、本能と理性の狭間がリアル

2025.4.21 北村有

“子宮で恋をする”「子宮恋愛」1〜2話を振り返る。夫との冷めきった結婚生活の中……会社の同僚にときめきを抱く主人公、そこにはさまざまな日常の背景があった。彼女の心情に迫る。

見抜かれた“自分を押し殺す癖“

「子宮恋愛」(読売テレビ・日本テレビ系)「子宮恋愛」(読売テレビ・日本テレビ系)

 ドラマ「子宮恋愛」は、タイトルからして非常に挑発的だ。実写ドラマとしての表現力に対する期待とともに、批判や戸惑いの声がSNS上でも飛び交っている。「子宮で恋をするなんて時代錯誤」といった声は、ある意味でもっともだ。だが、その扇情的な言葉の奥にある物語は、実はとても静かで繊細で、そして切実である。

 主人公の苫田まき(松井愛莉)は、自分の本音を言えずに日々をやり過ごす、“器用な”女性だ。職場でも家でも、波風を立てず、気を遣い、笑って受け流す。そんな彼女の“子宮=身体感覚”が先に恋をしてしまうことで、長く見ないふりをしてきた感情に火がついてしまう……それが本作の出発点である。

 結婚して6年になる夫・恭一(沢村玲)とは、目に見えて冷え切っているわけではないが、決して温かい関係でもない。彼はソファに根を張り、スマホを手放さず、会話もどこか上の空。妻が話し合いを求めても、その場しのぎで流してしまう。まきが子どもを欲しいと願っていることに対しても、彼の反応は冷ややかだ。

 そんななか、まきの心に入り込んできたのが、同僚の山手旭(大貫勇輔)だ。彼はまきの愛想笑いや曖昧な受け答えに対して、「何も悪くないのに笑う必要ある?」と切り込んでくる。普段ならスルーされるような彼女の“自分を押し殺す癖”を、山手は見抜いてしまう。

 彼の言葉はどこか強引だが、まきにとっては衝撃だった。誰にも見つけられなかった自分の心を、初めて誰かに見透かされた感覚。そして、その感覚に戸惑いながらも、彼女の“子宮=無意識下の欲望”は、山手に惹かれ始める。

人生の主人公は自分だと気づくまで

「子宮恋愛」(読売テレビ・日本テレビ系)「子宮恋愛」(読売テレビ・日本テレビ系)

 このドラマのキーとなるのは、まきが自分の“主語”を取り戻していく過程である。夫・恭一に対しても、職場に対しても、彼女はずっと“従属する側”であった。恭一のことを「主人」と呼ぶことにすら、違和感を抱かなかった彼女に対して、山手はこう言い放つ。

「“主人”って呼ぶの、やめたほうがいい。人生の主人公は、苫田さんなんだから」正直言ってこの言葉は、あまりにも使い古された、手垢が付き過ぎている言い回しだ。ラブロマンスのセリフとして機能しているかは疑問だが、アイデンティティを見直すきっかけと捉えることはできる。自分は何をしたいのか、何が嫌なのか、何を愛したいのか。まきは山手という“外部”と接触することで、無自覚に抑え込んできた欲望や感情を掘り起こしていく。

 まきは自分のことを「不倫なんて絶対しない」と信じている。だが、キスされた夜、明らかに彼女のなかで何かが動いた。まきにとって山手との関係は、いまのところまだ“境界線の向こう側”ではない。しかし、心の奥ではすでに踏み越えてしまっている。

 この揺れ動きの描き方が、本作の最大の見どころである。明確な裏切りが分かりやすく描かれるわけではない。しかし、まきの視線の揺れ、口ごもる言葉、沈黙するタイミング……それらが視聴者に「彼女はいま、どこまで来てしまったのか?」という問いを突きつける。

「子宮恋愛」は賛否を超えて“声にならない声”を掬い取る

「子宮恋愛」(読売テレビ・日本テレビ系)「子宮恋愛」(読売テレビ・日本テレビ系)

 一方の夫・恭一も、見方によっては“悪い男”ではない。暴力や浮気の描写があるわけではなく、ただ妻への関心が薄いだけ。だが、この「無関心」こそが、まきにとっては最大の孤独をもたらしている。身体の関係は一方的で、会話には熱がない。家族としての絆よりも、同居人に近い距離感。

 まきが子どもを望む理由も、どこか切ない。恭一と家庭を築きたいというよりも、子どもがいることで関係を“縛る”ため、自分が浮気しないため、という消極的な理由が見え隠れする。これが彼女の「安心のための恋愛」なのか、それとも「逃げ場のない結婚生活への必死の楔」なのか。視聴者はまきの葛藤に、言葉にできない共感を抱くだろう。

 このドラマに込められたテーマは、「子宮=本能」の是非を論じることではない。本当に描かれているのは、“声にならなかった心の声”がふとしたきっかけであふれ出し、自分の生き方を問うという、人間としての普遍的な問いである。

 松井愛莉の演技も素晴らしい。言葉よりも沈黙で感情を伝え、控えめながら芯のある女性像を繊細に演じている。山手役の大貫勇輔はやや類型的なキャラクターだが、まきの揺れ動きを促す“起爆剤”としての役割をしっかり果たしている。

「子宮恋愛」というタイトルに込められた意味を考えたとき、それは“身体で感じた違和感が、心を目覚めさせた瞬間”を象徴する言葉だったのかもしれない。誰かに支配されるのではなく、自分の人生を取り戻すための一歩。この物語は、不倫ドラマというより、女性が自分自身の人生を取り戻すための“再起の物語”として捉えるべきではないだろうか。

 読売テレビ・日本テレビ系「子宮恋愛」毎週木曜深夜0:59放送

「子宮恋愛」(第1話)予告

●【松井愛莉 主演!】ドラマDiVE「子宮恋愛」第1話PR解禁

「子宮恋愛」(第2話)予告

●【松井愛莉 主演!】第2話PR ドラマDiVE「子宮恋愛」OP主題歌「Bittersweet」ver

 北村有

ライター。2019年に独立。主に映画やドラマ関連のレビューやコラム、インタビュー記事を担当。主な執筆媒体はtelling, / ぴあWeb / CYZO ONLINE / TRILL / LASISAなど。映画館と純喫茶が好き。

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