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「彼女がそれも愛と呼ぶなら」“不倫女性の心理状態”を示す驚きの演出に、SNS上では「本当に理解できない……」

2025.4.28 北村有

複数愛を描く物語「彼女がそれも愛と呼ぶなら」3〜4話を振り返る。伊麻を取り巻く登場人物たちの間で“孤独が絡んだ”出来事が起こっていくが……。

「好きにも順番がある」言葉の残響に苦しむ青年の揺れ

「彼女がそれも愛と呼ぶなら」(読売テレビ・日本テレビ系)「彼女がそれも愛と呼ぶなら」(読売テレビ・日本テレビ系)

 登場人物たちの揺れ動く心の機微を丁寧に描くドラマ「彼女がそれも愛と呼ぶなら」。第3〜4話にかけて、複数恋愛を選ぶ伊麻(栗山千明)と、そのなかで自分の立ち位置に苦しむ氷雨(伊藤健太郎)の関係が、さらに繊細に揺らぎ始める。一方、夫の不倫と家庭内の孤独に悩む絹香(徳永えり)が、不倫相手との対話や新たな出会いを通して、自らの心の奥にある感情と静かに向き合っていく姿も描かれ、見る者に深い余韻を残す。恋愛、家族、友情……そのどれとも名付けられない関係のなかにある“孤独”とどう付き合うか。その静かな問いが、心に染みわたる回となった。

「好きにも順番がある、分量の違いというか」それは、空久保亜夫(千賀健永)の何気ない言だった。けれど、その言葉は小森氷雨(伊藤健太郎)の胸に静かに、しかし鋭く刺さり続ける。水野伊麻(栗山千明)のいちばんには、自分ではない誰かがいる。その事実を知ってしまったことで、氷雨の心には、どうにもできない不安と劣等感がしんしんと積もっていく。

 彼はその不安を、言葉ではなく行動で示そうとする。たとえば、三人の恋人たちが同じ日に伊麻をデートに誘うという状況を演出し、彼女が誰の誘いを選ぶのかを見ようとしたり。まるで、誰よりも自分を選んでほしいという、かなわぬ願いを試すような行為だ。

 けれど、それは同時に、伊麻に対する不信の芽でもある。相手を信じきれないことが、自分自身をさらに苦しめるという矛盾の渦中で、氷雨はひたすら揺れ続ける。冒頭、ゆるやかに揺れるカメラの画が印象的だった。あの揺れはまるで氷雨の心そのもののようで、足元の不安定さを映し出すように、物語の空気をやさしく、しかし確実に不穏に染めていく。

 そして氷雨の母が、突如として伊麻たちの家にやってくる展開も。目的はただひとつ、「息子の未来を守ること」。しかしその表現は、「浮気を正当化しないで」と、まるで伊麻を悪者に仕立てるような強い言葉になっていた。

 母親の強烈な保護欲は、氷雨の心を縛っていた。伊麻と過ごす時間のなかでようやく見えかけていた「自分の輪郭」が、ふたたび母という存在にかき消されていくような感覚。だからこそ、母が家を訪れたあとの氷雨は、深く傷つき、自分を責め、伊麻との距離をとろうとする。けれどそれもまた、自分で自分を愛せない人間が誰かを信じる難しさの現れなのだろう。

どこまでも平凡な日々に、亀裂が入った瞬間

「彼女がそれも愛と呼ぶなら」(読売テレビ・日本テレビ系)「彼女がそれも愛と呼ぶなら」(読売テレビ・日本テレビ系)

 一方で、4話では篠木絹香(徳永えり)の物語にも焦点が当てられる。夫の不倫が発覚し、思春期の娘とはうまく会話もできない。絹香は、誰かといてもどこか「一人」で、言葉にならない空虚を抱えていた。

 そんな彼女に会いに来たのは、夫の不倫相手・八沢藍子(西原亜希)だった。SNS上でも彼女の言動については「本当に理解できない……」と非難の声が多い。二人が喫茶店でやりとりするなかで、藍子はパスタの一口にまでタバスコをふりかけ、コーヒーには山盛りの砂糖を何杯も入れる。常軌を逸したようにも見えるその味覚のズレは、もしかすると“普通”に疲れ“常識”に疲れ“正しさ”に追いつけなくなった彼女の、密かな崩壊の兆しなのかもしれない。

 絹香は言う。「毎日が同じ、予測がつく」。それは、母として、妻として、女性として、自分の役割に押し込められた一人の人間の、静かな悲鳴でもあった。伊麻と再会した絹香は、3人の恋人と同居しているという彼女の生き方に驚き、戸惑いながらも、そのなかに何か「救い」のようなものを感じ始めている。

「大切な人の気持ちが自分以外に向いたら?」と問う絹香に、伊麻はこう答える。「執着しない。諦める。執着していると、自分が惨めになるから」。その言葉には、痛みを知る人間にしか持ち得ないやさしさが宿っていた。

 伊麻は、ただ「愛されたい」と願って生きているのではない。誰かを、何かを“愛する”ということ自体に向き合い、孤独とともに生きる術を、じっと手のなかに握りしめているように思える。

孤独の裂け目に、差し込んだ光

「彼女がそれも愛と呼ぶなら」(読売テレビ・日本テレビ系)「彼女がそれも愛と呼ぶなら」(読売テレビ・日本テレビ系)

 やがて絹香は、剥製アトリエの店主・針生永人(淵上泰史)と出会い、その穏やかで誠実な人柄に少しずつ心を開いていく。彼は彼女のネイルを褒めてくれた。誰からも注がれなかった“個人としてのまなざし”を、絹香はそこに感じ取る。

 それは“誰かの妻”でもなく“母”でもない、“絹香という一人の人間”として見てくれる人の存在だった。夫に質屋で売られてしまった父の形見の時計。その喪失を知り、家を飛び出した絹香を迎えたのは伊麻だった。「うちに来る?」と差し出された言葉はシェルターのようで、救済のようで、そして“孤独を知る者同士の共鳴”のようでもあった。

 絹香は心のなかでこう語る。「彼女は、孤独の取り扱い方を知っているように思えた」。この一言が、今作の本質を静かに、しかし確かに伝えてくる。

 読売テレビ・日本テレビ系新木曜ドラマ「彼女がそれも愛と呼ぶなら」毎週木曜23:59放送

【動画】第5話の予告を見る!

 北村有

ライター。2019年に独立。主に映画やドラマ関連のレビューやコラム、インタビュー記事を担当。主な執筆媒体はtelling, / ぴあWeb / CYZO ONLINE / TRILL / LASISAなど。映画館と純喫茶が好き。

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