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複数愛と嫉妬のリアルを描く「彼女がそれも愛と呼ぶなら」“好き”の重さに違いはあるのか?

2025.4.17 北村有

複数愛を描く物語「彼女がそれも愛と呼ぶなら」1〜2話を振り返る。独占欲や嫉妬心だけではない、複雑な感情が絡み合う新感覚の恋愛ストーリーに迫る!

「共有できない気持ち」と向き合う氷雨の揺らぎ

「彼女がそれも愛と呼ぶなら」(読売テレビ・日本テレビ系)「彼女がそれも愛と呼ぶなら」(読売テレビ・日本テレビ系)

 恋愛とは、本当に一対一でなければいけないのだろうか。独占欲や嫉妬心は、ただ醜く排すべき感情なのだろうか。「彼女がそれも愛と呼ぶなら」(読売テレビ・日本テレビ系全国ネット木曜ドラマ)は、そんな根源的な問いに対して、丁寧で繊細な筆致で挑んでいる。

 主人公・水野伊麻(栗山千明)は、挿絵作家として生計を立てながら、高校生の娘・千夏(小宮山莉渚)と二人で暮らしているシングルマザー。彼女の恋愛スタイルは、いわゆる「複数恋愛」――すでに風間到(丸山智己)と空久保亜夫(千賀健永)という2人の恋人と生活を共にしている状態で物語は始まる。そして、その暮らしぶりに惹かれていくのが大学院生・小森氷雨(伊藤健太郎)だ。

 年の差、恋愛観、家庭環境、そして“すでに恋人が2人いる”という現実。これだけのハードルを前にしても氷雨は、自分の気持ちに正直に生きたいと願い、伊麻と同居を始める。しかしその決断は、彼の中にある“所有欲”や“嫉妬心”と、真正面から向き合うことでもあった。

「恋人が他にもいる」ことを承知の上でスタートした関係でも、いざその現実を突きつけられると、理屈では抑えきれない感情があふれ出してくる。伊麻と他の恋人とのさりげないスキンシップや、ベッドの下から見つけた“自分ではない誰かの下着”に動揺する氷雨。彼は誠実に伊麻を愛したいと願うがゆえに、「自分の愛は軽いのでは?」「自分が彼女にとって3番目の存在だったら?」という不安に苛まれる。

 この“重さの差”への悩みは、複数恋愛に限らず、誰しもが感じたことのある感情ではないだろうか。どれだけ「好き」と伝え合っても、その気持ちが本当に“同じくらい”かどうかを確かめる術はない。だからこそ、氷雨の揺らぎはとてもリアルで切ない。

「嫉妬」や「独占欲」は、否定されるべき感情か?

「彼女がそれも愛と呼ぶなら」(読売テレビ・日本テレビ系)「彼女がそれも愛と呼ぶなら」(読売テレビ・日本テレビ系)

 氷雨の母親は、息子への依存心が強く、彼が家を出て伊麻との暮らしを始めることにも強い拒絶を示した。息子の人生を“自分のもの”として捉えてしまうような、いわば「行き過ぎた母性」は、現代でも少なくない。氷雨はそんな母に「僕じゃ母さんの寂しさは埋められない」と静かに距離を置くが、その言葉には彼自身の内なる葛藤もにじむ。

 独占欲や嫉妬は、必ずしも悪ではない。ただし、それに囚われ過ぎると、相手の自由や尊厳を奪ってしまう可能性がある。「彼女がそれも愛と呼ぶなら」は、そうした“感情との距離の取り方”をテーマの一つに据え、視聴者に静かに問いかけてくる。

 到の「恋愛感情なんて目に見えないものだ」という言葉が示すように、愛とはいつだって曖昧で、不確かで、コントロールしきれないものだ。ではそのなかで、自分はどう向き合っていくべきか。人を信じるとはどういうことか。氷雨はその答えを探し続けている。

「愛」に対するスタンスの違いを肯定する視点

「彼女がそれも愛と呼ぶなら」(読売テレビ・日本テレビ系)「彼女がそれも愛と呼ぶなら」(読売テレビ・日本テレビ系)

 このドラマが優れているのは、伊麻と氷雨の恋愛だけに焦点を当てるのではなく、周囲の人々の視点を交えることで、物語に厚みを持たせている点にある。

 伊麻の娘・千夏は、母の複数恋愛を受け入れているように見えるが、学校という小さな社会のなかでは偏見や噂にさらされ、苦しい思いをしている。クラスメイトに母親の交際相手の年齢差を指摘され、教室で居場所をなくすシーンは痛々しく、彼女の心情に寄り添わずに恋愛を優先しているように見える伊麻たちに対して、視聴者のなかにも少なからずモヤモヤが生まれるだろう。

 一方で、主婦である旧友・篠木絹香(徳永えり)は、夫との関係に悩みながら伊麻との再会によって複雑な感情を抱く。彼女は「家族」という形に守られながらも、その内側で孤独を抱えており、“自由すぎる”伊麻の姿に、自分の選ばなかった可能性を見ているのかもしれない。

 第2話の終盤、氷雨の過去の恋人とその彼氏に偶然遭遇した居酒屋のシーンは秀逸だった。過去の恋人から「遊びだった」と突きつけられた氷雨の心は傷つき、伊麻の前では見せられなかった弱さを見せる。過去の恋人に対して、伊麻が「その思い出、全部ください」と賭けを挑むシーンは、どこかコミカルでありながらも、氷雨に向けた真摯な愛情が確かに伝わってくる。

“愛の種類”や“重さ”に優劣をつけることはできない。しかし、それぞれが自分のスタンスを貫き、誠実に相手に向き合おうとする限り、それは立派な愛の形だ。本作は、そのことをくっきりと描こうとしている。

不安定さごと引き受ける愛の形へ

「彼女がそれも愛と呼ぶなら」は、決して分かりやすい “恋愛ドラマ”ではない。しかし、だからこそ、私たちが普段言葉にできずに抱えている感情……独占したい、でも縛りたくない。信じたい、でも不安になる。そんな不安定で矛盾をはらんだ想いを、肯定してくれる。

 登場人物たちが自分の“愛のかたち”を模索していく様子は、まさに現代を生きるすべての人への問いかけである。「それも愛と呼べるのか?」と自問しながらも、誰かを想う気持ちに誠実であろうとする。そんな不器用な優しさが、今後どのような形になっていくのか。

 読売テレビ・日本テレビ系新木曜ドラマ「彼女がそれも愛と呼ぶなら」毎週木曜23:59放送

【動画】第3話の予告を見る!

●【4月17日第3話】木曜ドラマ『彼女がそれも愛と呼ぶなら』60秒PR解禁!【彼女には3人の恋人がいる】

 北村有

ライター。2019年に独立。主に映画やドラマ関連のレビューやコラム、インタビュー記事を担当。主な執筆媒体はtelling, / ぴあWeb / CYZO ONLINE / TRILL / LASISAなど。映画館と純喫茶が好き。

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