日々募る“満たされなさ”「子宮恋愛」松井愛莉が演じた“抑圧のその先”に待ち受けるのは…?
2025.5.19 北村有
子宮で恋をする”「子宮恋愛」5〜6話を振り返る。夫婦が求める“家族の在り方”、まきの心情に変化が……。
誕生日の孤独が炙り出す、満たされなかった愛情

自分の誕生日だった日、誰にも祝われなかった。夫に忘れられていたこと、そして同僚の誕生日会が賑やかに開かれる様子を見て、苫田まき(松井愛莉)はようやくその寂しさと向き合う。誰かに祝ってほしかった。ほんの一言「おめでとう」と言ってほしかった。そんな小さな願いさえ届かない日常が、まきをじわじわと締めつけていく。
レシート一枚が、心を揺さぶるきっかけになる。そこには、バーの名前が印字されていた。誕生日の夜、夫・恭一(沢村玲)はバーにいた。プレゼントはあったものの、まきの趣味には合わないネックレスだった。まきはその現実をどうにか理性でやり過ごそうとするが、心の奥には確かに“満たされなさ”が残っている。
友人であり、夫の不倫相手でもある寄島みゆみ(吉本実憂)は言う。「子宮に聞いてみれば?」と。倫理も理性も超えた、本能的な“好き”が存在するという前提で語られるこの作品の中で、まきの揺らぎはどんどん鮮明になっていく。
教師という職業柄、生徒からの問いに対して模範解答を求められる場面は多い。だが、恭一が放った「結婚はスマホと同じ。なくても生きていけるが、不便」という言葉は、まきの胸に深く突き刺さる。まきにとって“夫婦”とは、大切なものを一緒に背負う存在であってほしいはずだった。しかし、恭一にとっては「不便を避けるための制度」に過ぎないのかもしれない。
彼の言葉の端々には、まきを“人生のパートナー”ではなく“家庭の機能”として見ている視点がにじむ。もはや二人の関係には、形だけの“夫婦”が残っているだけだった。
理性を超える“好き”は、抑えきれない?

そんななかで、まきは山手旭(大貫勇輔)との時間に、ふと“安らぎ”を見つけてしまう。差し入れを持って会いに行った夜。彼からの「前に恋愛する気ないって言ったけど、撤回していい?」という言葉が、まきの固く閉ざされた心のドアを、優しくノックする。
その直後に届いた義父の訃報。その出来事は、まきにもう一度“家族”の在り方を突きつける。だが、そこで見たのは夫が寄島の胸にすがり泣く姿だった。まきは、言葉にならない衝撃を覚えながらも、寄島と向き合う決断をする。
「夫と友人に裏切られた」と打ち明けるまきに、山手はただ黙って寄り添う。東京の空が広がる屋上。そこに吹く風の音だけが、ふたりの沈黙を埋める。言葉にならない感情を、山手は無理に引き出そうとはしない。ただ「いてくれてありがとう」という目線だけが、まきにとっての“救い”だった。
離婚を切り出した夜、逆上した恭一に詰め寄られたまきは、恐怖のあまり家を飛び出す。足元もおぼつかないまま、たどり着いたゲームセンターで、偶然山手に出会う。あの瞬間の、震えるまきをそっと抱きしめる山手の優しさは、まさに“心の居場所”そのものだった。
愛を“生きる”覚悟とは何か

寄島は言う。「理性では抗えない部分で惹かれている」「まきちゃんならわかるでしょ?」と。確かに、まきもまた夫以外の人に惹かれてしまっている自分に、戸惑いながらも向き合い始めている。
だが、彼女の選択は“逃避”ではなく、“覚悟”の表れである。誰のためでもない、自分の心に嘘をつかずに生きていく覚悟。松井愛莉が演じるまきは、感情を爆発させるのではなく、むしろ静かに、しかし確実に、“ひとりの女性”として歩き出す姿を浮かび上がらせる。その静けさが、むしろ強さとして伝わってくる。
“愛してはいけない人に惹かれてしまう”という、このドラマの命題。まきはその渦中で、「自分がどうしたいのか」を、ようやく言葉にできた。その一歩は決して派手ではないが、彼女にとっては“人生を選び直す”ほどの一歩だった。
揺れる心、裏切り、そして再生。「子宮恋愛」は、そのすべてを過剰な演出に頼ることなく、松井愛莉の繊細な芝居とともに描き出している。
まきのこれからは、まだ誰にもわからない。ただ確かなのは、彼女がようやく、自分の声を信じることを選んだということだ。それが、どんな答えよりも雄弁である。
読売テレビ・日本テレビ系「子宮恋愛」毎週木曜深夜0:59放送
ライター。2019年に独立。主に映画やドラマ関連のレビューやコラム、インタビュー記事を担当。主な執筆媒体はtelling, / ぴあWeb / CYZO ONLINE / TRILL / LASISAなど。映画館と純喫茶が好き。
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