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敏腕フレンチシェフがなぜ? 周囲を驚かせた「ミスターチーズケーキ」大ヒットの理由

2022.2.10 @okishimagazine

オンライン専売のチーズケーキ専門店として人気を博す「Mr. CHEESECAKE(ミスターチーズケーキ/愛称:ミスチ)」シェフの田村浩二さん。クリエイティブなシェフとして、また優秀なビジネスパーソンとしても手腕を発揮し続ける彼らしさの理由を探りました。

敏腕フレンチシェフが突然、オンラインでチーズケーキを売り始めた理由

『Mr.CHEESECAKE』 シェフの田村浩二さん Photo:Yumi Yamazaki

 数々の有名レストランでシェフとしてのキャリアを積み、弱冠33歳で“ゴ・エ・ミヨジャポン2018期待の若手シェフ賞”に輝いた田村さん。“独立したら、さぞかし素敵なフレンチレストランをオープンするのだろう”いう大方の予想に反して、2018年春に突然オンライン上でチーズケーキを売り始め、周囲を驚かせました。

あなたの人生最高に。(c)Mr.CHEESECAKE

「シェフになって大きな賞をいただいた結果、多くの人に僕の料理をおいしく食べてもらえる未来を想像していたのですが、集まってくるのは同業者やフードジャーナリストばかりで、厳しく品定めされながらシェフを続けることに疑問を持ったんです。

 決定打は、僕の料理を食べた母の『おいしかったけれど、よくわからなかった』という感想。ガストロノミーは“人と違う表現で、今まで体験したことのない料理を提供する”がコンセプトですから、料理に創意工夫を凝らすのが当たり前なのですが、料理そのもののおいしさを伝えきれなかったことが、心に引っかかってしまいました。

 第3者の評価をモチベーションにして仕事をしたくなかった。それよりも、自分が作ったものを食べて『おいしい!』と純粋に喜んでくれる人が増えていったほうが、ずっとうれしいと思ったんです。

『誰が食べてもおいしくて、より多くの人がハッピーになる料理で、国内外でさまざまな経験を積んできたシェフとしてのキャリアが活かせるのは何だろう?』とずっと模索して、たどり着いたのがチーズケーキです。

 子どもの頃から誕生日にずっと食べ続けてきた大好きなケーキで、材料も作り方もシンプル。シェフである僕がチーズケーキを作る意味、つまり“僕らしさ”を追求しながらあれこれ試作してみてInstagramに投稿したら、それを見たレストランのお客さんから『食べたい!』とリクエストをいただいたので、保冷バッグに自分の手書きサインをあしらってお送りしました。

 すると、食べた方が個人ブログに感想を投稿してくれて、フォロワーが一気に300人ほど増え、そこからどんどん広がっていきました」

「Mr. CHEESECAKE」が人気の理由は、“らしさ”がきわ立っているから

Mr. CHEESECAKE with Cooler Bag」3,456円(c)Mr. CHEESECAKE

 オンラインでしか買えない、田村シェフが作るチーズケーキは瞬く間に人気となり、毎週日・月曜の発売日には注文が殺到。冷凍 → 半解凍 → 全解凍と、温度によって刻々と変化する味わいと香りを楽しめる新発想が話題です。

「冷凍保存ができると、おいしいものを好きなときに食べられるし、手土産などで持っていくこともできます。

 また、冷凍なら長期間保存できるので、フードロスを回避できるメリットも。試作と試食を繰り返すうち、時間の経過にしたがって、ケーキの味や食感が大きく変化することに気がついたんです。

 1本の同じケーキから3段階の味わいが楽しめたら、届いた瞬間からユーザーの時間をしっかりもらえる商品になる。冷凍でも劣化することなく最後までちゃんとおいしくて、シェフが作ったオンラインでしか買えないチーズケーキ。さまざまな特長が組み合わさって『Mr. CHEESECAKE』らしい個性が生まれ、多くのユーザーに受け入れられていったのかなと思っています。

 なめらかでシンプルだけれど、ほかにない味と香りを目指して、僕が大好きなスパイスであるトンカ豆と、バニラ、レモンを組み合わせているのもこだわりポイント。トンカ豆は桜のような香りがするといわれているため、新しいのに懐かしく感じる、さわやかなおいしい香りです」

ケーキにまつわるノイズをなくす努力を強みへとシフト!

バニラ、レモン、トンカ豆の3つの香りと3段階の美味しさをご自宅で。(c)Mr. CHEESECAKE

 シェフでありながら経営者としても采配を振るうダブルヘッダー、田村さんを支えているのは、徹底した“問題解決思考”。

 人間が生活するなかで生じるさまざまな問題点に気づき、よく観察して、どこをどう変えていったら改善できるのか? 「生活のノイズをなくす方法は何か」を常に考え、実行しているのだそう。

『Mr. CHEESECAKE』の強みは、すべて、ケーキにありがちなノイズを解決しようと試みた結果なのです。

自分もスタッフも“自分らしく”健全に働くために実行していること

 東京やフランスで、昔ながらの徒弟制度が色濃く残る厳しい環境で修行を重ねたのちに独立した田村さん。少しでも次世代の食の担い手を増やすきっかけになればと、飲食業界の働き方改革を目指し、さまざまな工夫を凝らしています。

「シェフこそ、おいしいものを創り出す職人としての面と、目標設定と要件定義を明確にし、利益構造を数値で確認しながらビジネスとしての成果を上げる経営者としての面、両方が必要な職業だと思っています。

 賞を獲ったり名声を得たりするのは、あくまで“美味いモノを世に届ける”ことの副産物にすぎません。自分の創造性を追求するあまり、修行という名目でスタッフの労働や時間を搾取してしまいがちな飲食業界の働き方を変えたい。

『Mr. CHEESECAKE』のスタッフには、基本的に8時間労働を守ってもらい、残業には確実にペイするようにしています。スタッフを増やし、規定の労働時間内で、本当においしいものを無理なく作り、ユーザーに届ける。技術を持つ作り手が育つまでの時間はかかりますが、無理のない生産体制を構築することも僕の大切な仕事です。

 シェフとして王道のキャリアを歩み、それなりに成果も出した自分なら、旧態依然とした業界にも認められやすいのではないかと期待していますし、変革は自分の使命でもあると思います」

田村さんの“自分らしさ”があふれるアイテムは?

田村さん“らしさ” をつくるアイテム Photo:Yumi Yamazaki

「フランスにいた影響もあり、『メゾン マルジェラ』のものづくりの哲学が好きです。ファッションの世界ではスーパーハイブランドですが、店舗でもビジュアルづくりでも、ブランドやデザイナーのクリエイションをめいっぱい主張するのではなく、余白をあえて残すことで、商品そのものをフォーカスする姿勢に学ぶことがとても多いのです。ブランドの概念を共有したくて、自分のワードローブにも自然とマルジェラのものが増えています」

自分たちらしい働き方を貫いて、グローバルを目指す

開けやすさなど仕様にも拘ったボックス。(c)Mr. CHEESECAKE

「Mr. CHEESECAKE」のパッケージには“トーキョー”のカナテキストが記載されており、東京発信のブランドとして、いずれ世界へ打って出る、という強い意思がうかがえます。

「新型コロナ禍ではありますが、ブランド立ち上げ当時からグローバル展開を視野に入れて活動しており、着々と準備を進めています。

 食は、日本が世界で戦える数少ないコンテンツのひとつなのに、厳しい労働環境が原因で、実力のある担い手がどんどんいなくなっていて。それっぽく量産されたものだけが増えていっても、日本の食の価値や本質を伝えるのは難しくなってしまいます。

 僕がパイオニアになって、心身ともにすこやかに働きながら、自分が好きなことを長く続けるという当たり前の喜びを享受できる人、それを次世代へと還元できる人をひとりでもたくさん育てたい。お金をちゃんと稼げるという希望も示さなければなりません。

 会社としての実績も成果もまだまだ道半ばですが、働き方を変えてきた自信と自覚があります。そうしてやりがいを持って作り上げたブランドが、やがて世界中の人々を『おいしい!』というハッピーな気持ちで満たすことができれば、最高にかっこいいと思います」

お問い合わせ先
Mr. CHEESECAKE
https://mr-cheesecake.com/

著者 @okishimagazine

編集&ライター歴17年目。宝島社『InRed』『GLOW』、ハースト婦人画報社『ELLEgirl』を経て独立。雑誌や書籍などのペーパーメディアと、WebやSNSなどのオンラインメディアをハイブリッドで企画・制作・運用を強みとしている。

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