話題の【風呂キャンセル界隈】なぜ入浴が「好き」派と「しんどい」派に分かれるか? 根本的理由を心理カウンセラーが解説
2024.5.10 佐藤城人(さとう・しろと)
入浴するのがしんどくて入浴するのを諦める「風呂キャンセル界隈」という言葉がSNSで注目されています。この言葉に同意する意見が寄せられる一方、「入浴は当たり前」「入らないのは不潔」など否定する意見も見られました。なぜ意見が分かれるのでしょうか? この意見の食い違いを、「ワクワク派」と「ホッとしたい派」この2つのタイプの違いから考えてみました。
はじめに
お風呂に入るのがしんどい――。風呂に入ることをキャンセルする「風呂キャンセル界隈(かいわい)」というキーワードが、2024年4月30日(火)、X(旧ツイッター)でトレンド入りしました。「風呂キャンセル界隈」とは、風呂をキャンセルする、つまり入浴しない(できない)ことが日常的に発生する人たちを表す表現です。この言葉に「わかる」「そうそう!」と同意するコメントがたくさん寄せられました。特に、メンタルの不調や、うつ病などを抱えている場合の入浴がいかに困難かを主張する声が多く見られました。
一方で「入浴は当たり前」「入らないのは不潔」など否定する意見も……。なぜこのように意見が分かれるのでしょうか? この意見の食い違いを、「ワクワク派」と「ホッとしたい派」この2つのタイプの違いから考えてみました。
「ワクワク派」と「ホッとしたい派」に分けて考える
引越しの場面で考えてみましょう。どちらがワクワク派で、どちらがホッとしたい派ですか?
A : 新しい土地や人との出会いは、楽しみ
B : 新しい土地や人との出会いは、不安
答えは、Aが「ワクワク派」、Bが「ホッとしたい派」です。
Aの「ワクワク派」タイプは、変わることはワクワクすることと捉え、変化を好みます。この反対に、不快なことが苦手です。キーワードは「快感と不快」そして「変化」 です。
Bの「ホッとしたい派」タイプは、変わることに対し不安を抱きます。つまり、同じであることに安心感を持ちます。キーワードは「安心と不安」そして「不変」 です。
では「入浴」に当てはめてみましょう。“風呂に入らないこと”を「不潔だ」と捉えることは、不快感の延長であり、ワクワク派の人の主張となります。これに対し、ホッとしたい派は、入浴の際の準備や手順、さらに入浴後の細々としたことなどを考えて不安になります。だから、その不安を解消するために「入浴するのをやめよう(=風呂キャンセル)」という状況が生まれるのでしょう。
入浴しないことを「不快」と捉えるのか、それとも「不安の解消」と捉えるのか、この違いではないでしょうか。快感と安心を比べた場合、ホッとしたい派の場合、安心感を得る方を優先させます。
快感を求めるワクワク派と、安心を求めるホッとしたい派について、どちらが良い・悪いというものではありません。あくまでも、捉え方の違いです。また、どちらかに明確に区別できるものでもありません。ケースバイケースで使い分けができます。元々、風呂が苦手、嫌いというタイプも一定数存在します。ただここでは、あくまでも「入りたいけど入れない」という人を念頭に書いています。
「楽」に対する捉え方の違い
このワクワク派とホッとしたい派を、もう少し掘り下げてみました。うつに対する理解が浸透していない時代は、うつで休職している人に対して「怠けている」という心ない発言をするケースがありました。これは「楽」に対する捉え方の違いです。
のんびりと落ち着いた状態、安心を「楽しい」と捉えるホッとしたい派。その一方、ワクワク派にとっての「楽しい」は、快感や変化を伴う必要があります。 従って、ホッとしたい派の「楽しい状態」を、ワクワク派は、つい手を抜いていると捉えてしまいがちです。
また、速度で考えた場合、ワクワク派はスピードがあります。チャレンジャーといった感じでしょうか。対するホッとしたい派は、のんびりマイペースです。同じであることを重視するからです。このスピードの違いも、ワクワク派からは怠けているように見えてしまうのでしょう。
ストレスの受け取り方
ワクワク派とホッとしたい派、それぞれが抱えるストレスにも違いがあります。
ワクワク派の場合、ベースにあるのは「快と不快」と「変化」でしたね。変化の無い状態、ワクワクできない状態は不快となり、ストレスを生みます。また、チャレンジをして何も変化が得られない場合などもストレス要因となります。
ホッとしたい派の場合、ベースにあるのは「安心と不安」と「不変」です。そのため、同じではない状態、ホッとできない状態が不安となり、ストレスを生みます。
両者のストレスを比べると次のようになります。
・ワクワク派のストレス:不快な状態、変化のない状態
・ホッとしたい派のストレス:不安な状態、変化する状態
ホッとしたい派の場合、「同じ状態」でいることを希望したとしても、それがかなわないケースや、変化を受け入れなければならない(受け身)ケースがどうしても出てきます。変化に関して、本人が望まなくても、変わることを求められる場合も多いのです。 例えば、進学や進級、卒業、就職、加齢などです。これらはホッとしたい派にとって、受け身的にもたらされるストレスとなります。
もちろん「すべてのストレスが悪い」わけではありません。言い換えるのならば、良いストレスもあるということです。例えば、主体的に関わったことで受けるストレスは、乗り越えることで結果的に自信に繋げることができます。 これに対して、受け身的にもたらされたストレスは、乗り越えにくく、結果的に心身の不調を招きやすい、と考えることができます。
心理カウンセラー・心理セラピスト 佐藤城人(さとう・しろと)
心理カウンセラー・心理セラピスト。過去にアルコール依存症を患った経験があり、それを克服する過程で40代に再度大学に入学、心理学と出会う。各種依存症やインナーチャイルドを抱える方、さらには社交不安障害や愛着障害の悩みなど、これまで10年間で約5000名様の悩みをサポート。インナーチャイルドの回復プログラムの中で「正しさよりも心地よい生き方」を提唱する。2019(令和元)年一般社団法人インナークリエイティブセラピスト協会を設立。現在はカウンセラー・セラピストの養成にも力を入れている。
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