警視庁に保護された「少年」と両親…3人が【新幹線】に乗れなかった悲しい事情【東京タクシー百景vol.6】前編
2024.5.5 橋本英男
タクシードライバーが見た東京の実相とは――? 今回は、筆者がこれまでに乗せた「行き先が最も長距離だった客」について。前編です。
常に変わりゆく時代の群像を一番間近に見続けてきた職業、それはもしかしたらタクシー運転手かもしれません。小さな車内で交わされる、ほんのいっときの人間模様。喜怒哀楽や幸不幸を乗せて、昭和から平成、令和へと都会を駆けた元ドライバーの筆者が、その一端をお話しします。
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タクシー業界の「お化け客」とは何か?
どんな場所にも業界にも七不思議とか都市伝説とかの類は存在するものです。タクシーにも「お化け客」と呼ばれる乗客がいます。本物の幽霊じゃなく、信じられないような長距離を頼んでくる乗客のこと。筆者がこれまで乗せた一番の長距離をお話しします。
もう20年も前のことです。その日、東京は梅雨明けの快晴で、午前10時頃に筆者の車は日比谷通を西新橋に向けて、のんびり流し営業をしていました。都心の千代田区内に位置する警察署前に差し掛かったところ、警察官が二人して筆者を指さし「止まれ、止まれ」と合図をしているではありませんか。
特に違反をしたわけでもないので、見なかったことにして走り抜けようかと一瞬思いましたが、二人は笛まで吹いて車の前で両手を広げるのです。
チェッ。付いてないな。何も悪いことしてないのに。と思いきや、
「運転手さん、ごめんごめん。あのね、お客さんをお願いできませんか。行き先は少し遠いすが」
「あっ、お客さんですか? もちろんいいですよ、どうぞどうぞ」
筆者は勘違いをしたようでした。職業柄、お巡りさんに止められるというのは、決していい気持ちではありません。まして皇居外苑を管轄に持つ署の前です。場所が場所ですから狼狽(ろうばい)しましたが、取り越し苦労だったようです。
それにしても「少し遠い」とは、どこまで行く客なのか。それにわざわざ警察官が出てきてタクシーを止めるとは、何か事情があるのだろうか。
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