【会食恐怖症の克服】当事者・周囲が“今”できる実践ケア“回復へのヒント”を心理カウンセラーが解説
2024.3.11 佐藤城人(さとう・しろと)
誰かとご飯を食べること(=会食行為)に対して、健全ではない強い不安を感じる「会食恐怖症」。「会食恐怖症」から“回復するためのヒント”について、心理カウンセラーで一般社団法人インナークリエイティブセラピスト協会の代表を務める佐藤城人さんに解説していただきました。
回復するための4つのヒント
「会食恐怖症」の人は、誰かとご飯を食べること(=会食行為)に対して、健全ではない強い不安を感じます。次第にその不安を避けようするとすることで、交友関係・恋愛・仕事などで何らかの支障が出てしまいます。
前回の記事では、「会食恐怖症」について、主に概略や要因について考えてきました。本記事では、「会食恐怖症」から“回復するためのヒント”について、心理カウンセラーで一般社団法人インナークリエイティブセラピスト協会の代表を務める佐藤城人さんに解説していただきました。
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次の4つの観点から考えてみましょう。
1.分ければ分かる
2.視線の方向性(自分の五感を取り戻すこと)
3.安全・安心の場の確保
4.「ありのままの自分にOK」を出すこと
1.分ければ分かる
ひと口に「会食恐怖症」の当事者と言っても、恐怖を感じる場面は人によって異なります。もちろん、同じ人であっても、ケースバイケースですし、回復の過程においても、OK な場面とOK ではない場面に分かれることでしょう。
「分ければ分かる」これは、心理カウンセラーの私がクライエントさんにも実際にお伝えしていることで、細かく分析することが自己理解に繋がるという意味で用いています。ほとんどのクライエントさんは、自分のことを病名で一括りにして自己紹介をします。例えば、
・私は会食恐怖症です
・僕はアルコール依存症です
このように名乗ってしまうと、あたかも事実のように聞こえませんか?一日に1万回「僕は会食恐怖症者です」とつぶやいてください。それで回復できるのでしょうか? かえって自己暗示にかかってしまいそうです。
大事なことは、自分の症状を具体的に分けて捉えることです。「他の人が同席する際に恐怖を感じる」としても、他の人とは、具体的に誰のことなのでしょう? 初対面の人だけなのか、友人も含まれるのか? また、感じる恐怖感、これを数値化してみましょう。恐怖を感じた際、マックスの状態を10点満点の10点とします。それと比べて今感じる恐怖感は何点ですか?
日々、これらの記録を取ると、「自分のトリセツ」が出来上がります。上手くいく場面と上手くいかない場面が分かってくるからです。また、不安や恐怖心とも向き合うことが可能になります。そして、自分の症状を自分で知るという行為が次の「五感を取り戻す」につながります。
会食恐怖症を発症しやすいタイプは?
2.視線の方向性(自分の五感を取り戻すこと)
親や先生における発症のメカニズムの中で、「視線の方向性」について触れました。【図1】をご覧ください。自己肯定感を2層構造(2階建て)で捉えたものです。
1階の黄色い部分は、自分で自分にOKを出せることによって変化する自己肯定感。私的自己意識と言います。2階の青い部分は、周囲の評価に応じて変化する自己肯定感です。公的自己意識と言います。そして、1階も2階も、どちらも大きくなったり、小さくなったりします。
Aタイプは、自己主張はするが、周囲の意見には耳を貸さない人です。ドラえもんで言えばジャイアンが当てはまります。Bタイプは、相手に合わせることばかりで、自己主張や自己決定できない人。ドラえもんののび太くんが該当します。
では、このA・B・Cのうち、最も自己肯定感が安定しているのはどれですか?
答えは1階も2階も広いCタイプです。そして、周囲の視線を過度に気にする会食恐怖症の場合Bタイプとなります。周囲の意見やアドバイスに耳を貸すことは大事です。ただBの場合、そればかりで、自分の中に「では、どうするのか?」、「どうすれば上手くいくのか?」という明確な判断基準がありません。これでは、たとえ回復できたとしても、自分で回復を実感することができません。
次の質問で考えてみましょう。
・あなたの好きな食べ物、飲み物は何でしょう?
・あなたの嫌いな食べ物、飲み物は何でしょう?
この質問に答える際の判断となる基準は「自分の好き・嫌い」です。この好き嫌いとは、正しさではありません。自分の「心地よさ」が判断の基準となります。しかし、Bタイプの場合は、正しさを優先させてしまいます。1階の自己肯定感とは、自分にとっての心地よさがベースになる部分です。2階の自己肯定感とは、自分にとっての正しさがベースになる部分です。
Bタイプの特徴の1つ「周囲の視線を過度に気にすること」が、結果的に「(相手に合わせて)間違えてはいけない。正しい選択をしなければいけない」となってしまいます。
では、BタイプがCタイプになるためには、どうしたら良いでしょうか?
ポイントは、『自分の五感を活用すること』(正しさよりも心地よさ)です。よく、「周囲の意見なんか気にしないことだよ」というアドバイスを耳にします。しかし、これでは上手くいきません。再度、【図1】をご覧ください。Bの場合、広げた方が良いのは1階ですか、それとも2階ですか?
「気にしなくてよい」というのは「2階の青い部分を削りなさい」ということです。でも、本来目指すべきは、1階を広げることです。
1階の黄色い部分は、自己主張をする、自分で決めることのできる部分です。ただ、いきなり自己主張しましょう、と言われても難しいです。なぜかと言うと、上述したように、自分の中に判断する基準がないからです。自分の意見を述べるとは、自己の基準と照らし合せる作業だからです。まず必要なことは、自分の五感を取り戻すことです。五感を使って「心地よさ」という基準を感じ取ることです。一日一回数分でOKです。自分の五感を呼び覚ます時間を作ってみてください。
例えば、
・白いご飯の一粒一粒を眺め、舌でゆっくりと味わってください。視覚や味覚、嗅覚の活用になります。
・ひと口ごとに「いただきます」と丁寧に言葉を発するのもOKです。食べることに罪悪感を持つ方におすすめです。
・暮らしの中で、青空を眺めたり、遠くのビルを見たり、室内の様子を見たりするなど、自分から周囲を眺める時間を増やしてください。
これらのことに日々取り組むことにより、あなたに本来備わっている心地よい感覚を取り戻すことができます。
3.安全・安心の場の確保
カウンセリングにお越しになるクライエントさんたちが、日常生活において「安全性や安心感」は得られているでしょうか?実は、 確保できていない方がほとんどです。
よく「不安が無くなったら安心できる」と言う人がいます。しかし、不安がゼロになることは皆無です。そこで逆転の発想です。「安心するために○○をしよう。そうすれば不安は軽減できる」この発想の方が上手くいくようです。具体的な方法は「回復の方法」でお伝えします。
4.ありのままの自分にOKを出すこと
今を否定しないことです。今を否定する人が、未来を肯定できるのでしょうか?例えば、「今年はダメだった。来年こそは」と言う人はいませんか?きっと毎年暮れに同じことを嘆いているのではないでしょうか?
回復という未来を手に入れたいのならば、今の段階で肯定している必要があります。今を肯定する秘訣(ひけつ)は、「出来ている部分」を見つけることです。
先ほど「分ければ分かる」のところで数値化することをご提案しました。「今日一日を振り返ってください。今日は10点満点の何点でしたか? 少なくとも1点2点はあると思います。たとえ低い点数であったとしても、その点数になったのであれば、何かしらできたことがあるはずです。このできている部分をすぐに見つけることは、難しいかもしれません。なぜならば、失敗した部分の方が記憶にも残りやすいからです。ただ、その不完全な自分こそが、「ありのままの自分」なのかもしれません。
アドラー心理学では「自分の不完全さを認め、受け入れなさい。相手の不完全さを認め、許しなさい」と説きます。この結果が「ありのまま」を受け入れることになります。
では次に「ありのままの自分」について考えてみます。
“ありのままの自分”とは…
図2をご覧ください。内側の丸が「自分の自己像」です。外側の丸が「親が期待するあなたの姿」です。アドラーの理論を踏まえつつ、不完全さについて親子関係からも考えてみようと思います。
お子様がいらっしゃる方に質問です。「あなたの子ども、あなたが期待する大人に成長しましたか?」、「あなたは親が期待する大人になりましたか?」100%「YES 」とはなかなか言いづらいのではないでしょうか?
このように考えてみると、私たちがイメージする完全な自分とは、親が期待する姿と言えます。しかし、100%その理想の姿と一致することはありません。これが「不完全な自分」です。
「ありのままの自分」とは、親の期待に応えようと一生懸命に頑張る自分・それに応えられずに落ち込む自分・自分が自分自身でありたいと願う自分、これらをすべてのことを言います。そして、「ありのままの自分を受け入れる」とは、それらの自分を受け入れて包み込むことなんですね。
5.自分を責めない、周囲を責めない
会食恐怖症からの回復には時間がかかる場合が多いです。明確に何月後何年後には回復できると断言できるものではありません。上手くいかないとき、どうしても自分や相手(特に親)を責めてしまいがちです。責めたい気持ちはわかります。しかし、責める行為は「否定」につながります。否定からは否定しか生まれません。そして、自分の症状のせいにするのも上手くいきません。なぜならばその症状を生み出したのは自分自身なのですから。上述したように、それらをすべて「ありのまま」として受け入れることです。
「スッキリ……!」モヤモヤやマイナス感情をリセットする【気持ちを吐き出すワーク】のやり方
心理カウンセラー・心理セラピスト 佐藤城人(さとう・しろと)
心理カウンセラー・心理セラピスト。過去にアルコール依存症を患った経験があり、それを克服する過程で40代に再度大学に入学、心理学と出会う。各種依存症やインナーチャイルドを抱える方、さらには社交不安障害や愛着障害の悩みなど、これまで10年間で約5000名様の悩みをサポート。インナーチャイルドの回復プログラムの中で「正しさよりも心地よい生き方」を提唱する。2019(令和元)年一般社団法人インナークリエイティブセラピスト協会を設立。現在はカウンセラー・セラピストの養成にも力を入れている。
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