お雑煮を元旦に食べる意味は? なぜ地域で餅の形・味・具材が違う?栄養バランスは? 栄養士ライターが解説
2024.1.1 野村ゆき
おせち料理と並び、お正月のお祝いに欠かせない「お雑煮」。日本の伝統料理の一つですが、なぜお正月に食べるようになったのでしょう。また、地域や家庭によってお餅の形や具材、だしの味が異なることも特徴です。結婚をして、お互いの家の雑煮の味や中身が違って驚いたという経験を持つご夫婦も多いのではないでしょうか。この記事では、お雑煮の由来や意味、地域による違い、栄養ポイントなどをご紹介します。
実は元旦のごちそうの主役は、おせちではなく「お雑煮」!?
「お雑煮」は、さまざまな具材を煮合わせた「煮雑(にまぜ)」が語源とされています。お雑煮のメイン具材であるお餅は、もともと特別なお祝い事がある“ハレの日”に神さまにお供えする神聖な食べ物でした。お正月にお餅を食べるようになったのは、平安時代に宮中で健康と長寿を祈願して行われた正月行事「歯固めの儀」が由来とか。やがて、お正月にやってくる年神さまをお迎えするために、秋に収穫した新米から作ったお餅と農作物・海産物を大晦日(おおみそか)にお供えし、そのお下がりを元旦にお雑煮としていただくようになったと考えられています。神聖なパワーが宿ったお供え物をいただき、一年の無病息災を祈ったのです。そう考えると、元旦の祝い膳の主役はお雑煮であり、おせちは名脇役かもしれませんね。
お雑煮の餅の形・だしの味・具材が日本各地で違う不思議
お雑煮の原点は、神さまへお供えした、その土地の産物とお餅を煮込んだもの。そのため、お餅の形や具材、だしの味など、地域によって、多彩なバリエーションが生まれ、現在まで受け継がれてきました。その種類は100を超えるほど多様性に富んでいると言われ、特に、東日本・西日本で顕著な違いがあるようです。
●東日本は「角餅×すまし仕立て」が主流
東日本の関東周辺と寒冷地は「角餅」と呼ばれる、四方が角ばったお餅が主流。江戸時代は関東周辺に人口が集中していたため短い期間で量産しやすい角餅が作られるようになった、武家社会の中心地だったため「敵をのす」との縁起担ぎから、のし餅を四角く切った角餅を焼くようになった、などの説があります。
また、関東周辺のお雑煮は、青菜と鶏肉入りのすまし仕立てが多いのも特徴。これは、青菜の「菜」と鶏肉の「鶏」から「名取り」、「菜」と「餅」を一緒に持ち上げて食べることで「菜を持ち上げる」が転じて「名を上げる」という深~い縁起担ぎの意味が込められているのだそう。
●西日本は「丸餅」×「白みそ派・すまし派」が混在
西日本では、多くの地域が丸餅を使用しています。その丸い形が「円満」を象徴する縁起にあやかっています。特に近畿エリアでは、京都雑煮とも称される白みそ仕立てが主流。里芋(京都は海老芋)、魔除けの意味で赤い金時人参、通常より細長い雑煮大根を使い、「家庭円満」「物事を丸く収める」などの縁起を担いで、具材の角を丸く整える地域が多いようです。
近畿以外の西日本は、かつお出汁のすまし仕立てが多いようですが、福岡地方の焼きあご(とびうお)だし×ブリとかつお菜(高菜の一種)のお雑煮、鳥取地方の邪気払いの願いをこめた小豆汁の雑煮などの個性派も。丸餅を焼くか、焼かずに汁で煮て柔らかくするかも地域によって違いがあります。
一説には関ヶ原の合戦を境に東西でお餅の形が分かれ、境界近くの岐阜や三重、滋賀では丸餅派と角餅派が混在しているとも。また、その地域が山間部であれば山の幸、海に面した土地であれば海の幸が具材になっている傾向があるようです。とはいえ、日本各地の集落で口伝のように伝承されてきた郷土食なので、まだまだ分かっていないことも多いのではないかと私は感じています。
ちなみに、筆者は大阪在住ですが、お正月の三が日でお雑煮の内容が白みそ仕立て→すまし仕立てと変化します。大阪の一部地域では、商売人が多く「商い」=「飽きない」の語呂合わせにかけて3日間で雑煮の内容が変わるそうです。私の実家の親も亡き祖母から受け継いだので、今となっては、その理由や歴史を確かめる術がありません。このようにして作り方や具材の細かな違いまで着目すると、日本の家庭の数だけ、お雑煮の種類が存在するのかもしれません。お雑煮には、それぞれの地域と家庭の食文化が凝縮されていると言えそうです。
編集ライター歴25年以上。食と栄養への興味が高じて40代で社会人学生となり、栄養士免許と専門フードスペシャリスト(食品流通・サービス)資格を取得。食品・栄養・食文化・食問題に関する情報+好奇心のアンテナをボーダーレスに広げ、分かりやすい記事をモットーに執筆中。
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