おせち料理の由来と意味は?絶対に外せない3種“祝い肴”は関東と関西で違うって知ってた? おせちの栄養面まで栄養士ライターが解説
2024.1.1 野村ゆき
お正月のごちそうといえば、晴れやかさバツグンの「おせち」。おせちには、新年を迎えるにあたって家族の健康や幸せを願う、さまざまな縁起担ぎの意味が込められているのをご存知でしょうか。この記事では、「おせち」の由来や料理に込められた意味、栄養面にもスポットをあてたいと思います。
「おせち」には一年の幸せを願う縁起物が詰まっている
「おせち」は「御節(おせち)料理」と書き、季節の変わり目である「節日(せちにち)」に、神さまにお供えした「御節供(おせちく)」が由来とされています。その歴史については諸説ありますが、日本で稲作が広まった弥生時代に始まり、奈良時代や平安時代に朝廷で節日をお祝いするお供えとして用いられるようになり、特別な5つの節日(五節句)が祝日に制定された江戸時代から民間に広まるようになったとか。重箱に詰める「おせち」が定着したのは、江戸末期から明治時代にかけてと言われています。
長い時を経て庶民のお正月料理として定着した「おせち」には、神さまと人が共に飲食をする「神人共食(しんじんきょうしょく)」の考え方が受け継がれ、料理や作法に、さまざまな祈りや願いが込められています。おせちやお雑煮をいただくときに使う「祝い箸」の両端が細くなっているのは、片方は神さまが、もう片方は自分(人間)が使うためで、「神さまと共にいただく」という意味があります。
「おせち」の花形スターは三種の「祝い肴」
「おせち」の一般的な料理ラインアップは、大きく分けて5種類。新年のお祝いに欠かせない「祝い肴(いわいざかな)」、祝い肴と同様に酒の肴になる「口取り(くちとり)」、縁起の良いエビやブリなどの魚介を使った「焼きもの」、家族が仲良く結ばれる縁起を担いで根菜を煮しめる「煮もの」、酢で味付けした箸休めの「酢のもの」です。
この5種類を「幸福が重なるように」との願いを込め、重箱に詰めます。5段重を用いるのが正式で、一の重には「祝い肴」「口取り」、二の重に「焼きもの」、三の重は「煮もの」、与の重(四ではなく与と書くのもゲン担ぎ)に「酢のもの」を詰め、五の重は「控えの重」で、神さまから授かった福を詰める場所として“空”にしておきます(とても粋な慣習ですね)。近年は五の重を省略し、二の重に焼きもの・酢のもの、三の重に煮ものを詰めた3段重が定番になっているようです。
この中で絶対に外せないのが「祝い肴」です。「三つ肴(みつざかな)」とも呼ばれ、子孫繁栄、不老長寿、豊作を祈る3品を用意します。関東地方は「数の子」「黒豆」「田作り・ごまめ」、関西地方は「数の子」「黒豆」「たたきごぼう」が一般的で、それぞれの特徴や縁起担ぎは次のとおりです。
●数の子
数の子はニシンの卵。粒の数が多いことから子孫繁栄を意味します。また、ニシンは「春告魚(はるつげうお)」の異名から迎春にふさわしいとされ、ニシンに「二親」の字を当てて父母の長寿も祈願します。家族の幸せと新春の慶びが詰まった縁起物といえます。
●黒豆
日に焼けて真っ黒になるまでマメに(元気に)働けるよう、無病息災の願いをこめたもの。関西では「しわが寄らないように(年をとらないように)」という意味で丸くふっくらと、関東では「しわだらけになるまで長生きできるように」と、わざとしわが入るように煮上げる違いも。
●田作り・ごまめ
カタクチイワシの稚魚を乾燥させて甘辛いタレにからめたもの。かつて素干しが田の肥料として使われたことから「田作り」、米が5万俵収穫できたことに由来して「五万米(ごまめ)」の文字をあてて呼ばれることも。五穀豊穣や豊年満作の願いが込められています。
●たたきごぼう
ゴボウを叩いてゆで、ごま酢やくるみ和えなどにします。ゴボウが地中深くまで根をはる野菜であることから、家の土台がしっかりとするようにと願いがこめられています。また、ゴボウを叩いて開くことで、開運の縁起も担いでいます。
なお、「祝い肴」と共に一の重を彩る「口取り」の定番メニューは、紅(魔除け)×白(浄化)のコントラストが美しい蒲鉾(かまぼこ)、黄金色に仕上げて豊かさと蓄財を願う栗きんとん、巻物に似た形状で知識や文芸の向上を願う伊達巻、“よろこぶ”に通じる縁起物の昆布巻きなど。魚・鳥・野菜の山海の幸を、保存が効くよう甘みをきかせて調理したものが多く、地域によっては、郷土料理が取り入れられているケースもあります。
祝い肴は高たんぱく×低カロリーでミネラルも豊富!
なお、私が過去に作った「数の子(漬け汁残し)」「黒豆」「田作り(くるみ和え)」「たたきごぼう(ごま酢和え)」の1人分(豆皿に少量ずつ)の栄養価を計算してみました。数の子、黒豆、田作りは、高たんぱくで低カロリー・低脂質で、ミネラルも含まれています。黒豆にはポリフェノールや大豆イソフラボン、田作りのカタクチイワシには、“オメガ3(n-3系)”で知られる必須脂肪酸のDHAやEPA、糖質や脂質の代謝を促すビタミンB群も含まれています。また、たたきごぼうは、食物繊維が豊富です。
「おせち」は縁起の良さ、彩りの華やかさだけでなく、一年の始まりにふさわしい栄養バランスを備えていると言えそうです。とはいえ、ほかにも雑煮や煮もの、焼きものなど、目移りするほどごちそうが多く、普段以上にお箸とお酒がすすんでしまいがち。食べ過き・飲み過ぎにはくれぐれも気をつけましょう。
編集ライター歴25年以上。食と栄養への興味が高じて40代で社会人学生となり、栄養士免許と専門フードスペシャリスト(食品流通・サービス)資格を取得。食品・栄養・食文化・食問題に関する情報+好奇心のアンテナをボーダーレスに広げ、分かりやすい記事をモットーに執筆中。
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