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真夜中の歌舞伎町で乗った女性、彼女が語った“意外な夢”【東京タクシー百景】

2023.11.5 橋本英男

タクシードライバーが見た東京の実相とは――? 今回は、歌舞伎町で乗せた若い女性が語った夢について。

タクシー運転手にとっての乗客たち

東京の街を行くタクシーのイメージ東京の街を行くタクシーのイメージ

 常に変わりゆく時代の群像を一番間近に見続けてきた職業、それはもしかしたら、タクシー運転手かもしれません。小さな車内で交わされる、ほんのいっときの人間模様。喜怒哀楽や幸不幸を乗せて、昭和から平成、令和へと都会を駆けたドライバーの筆者が、その一端をお話しします。

※ ※ ※

 2015年の調査にはなりますが、国土交通省が行った「タクシーに関するアンケート調査」によると、タクシーのサービス水準についてどう感じるかという問いに対して、50.6%の人が「ふつう」と答えたそうです。

 「良い」は37.7%、「悪い」は4.9%だったとのこと。これは運転手としては、まずまずの結果と受け取って良いものでしょうか。接客態度について、業界では当時よりさらに厳しく指導する向きがあるので、2023年現在はもう少し「良い」の割合が増えていることを願います。

 タクシードライバーの接客態度はしばしば世間の話題になりますが、逆に乗客側の振る舞いもドライバーたちの間で話に上ることはあります。「若い人ほどマナーが大きい」「派手な服装の客には気を付けろ」――。それぞれの経験則で言うのですから、大した根拠はありません。あまり真に受けられるものでもないでしょう。

 若い人ほど態度が大きい。これは果たして本当か。筆者自身、それに該当する乗客に出会ったことはありますが、やはり一概には言えません。思いも掛けない人柄に触れた経験も数多くあります。

深夜3時の女性客

東京の街を行くタクシーのイメージ東京の街を行くタクシーのイメージ

 2010年代半ば、東京は新宿・歌舞伎町での出来事です。筆者の運転するタクシーは、熱帯夜の未明3時過ぎ、職安通りで派手な身なりの若い女性を乗せました。

 肌があらわなシースルーの衣装で、この街の夜を体現したようないでたち。筆者は都内の会社に帰庫する時間でしたが、女性が歩いていた様子から近場だろうと踏み「もう一本稼ごうか」と、回送板を解除して乗せたのです。すると

「ごめんなさい、少し遠いんですけど、埼玉の川口までお願いします。私、寝ませんから」

と指示されます。

 筆者の帰る方向と逆でしたので、ちょっと遠いな、どうしたもんかと一瞬逡巡(しゅんじゅん)したものの、「寝ませんから」の言葉に何か気遣いを感じて営業を続行することにしました。

 走って間もなく、「運転手さん、私、どんな仕事しているか分かりますか?」。女性が声を掛けてきます。

「いえ。えーっと、飲食業か何かですか?」
「いいえ、夜のお店で働いてます。こんな格好ですから、きっとお気づきでしたよね。ストレスが多くて、とても厳しい仕事です。長くは続けられない」
「それはそれは、大変ですね」

 都会のネオンを車窓に眺めながら、彼女は問わず語りを続けます。

「私、シングルマザーで二人の子どもがいます。私が働いている間は、同居の母が見てくれてます。母には感謝しかありません。母も亡くなった父のことですごく苦労をした人で……」

「……世の中は思うようにいきませんね」

「父は、人当たりはいいけど、ギャンブル好きで酒乱で、愛人がいました。サラ金からたくさん借金をして、めちゃくちゃな生き方をしていました。だから私は母に親孝行したいし、家族が楽しく暮らせるようにと頑張ってます。今日は久しぶりに友達とカラオケへ行って発散してきました」

「それは良かった。でも、ご自宅まで少し遠いですから交通費が大変ですね」

「いつも早出や日勤だし、電車通勤だしね、ときどき遅番のとき帰りにタクシー使うくらいで、そうでもないんですよ。地元ではこの仕事をするのは抵抗があるし。私、こう見えてもお店のナンバーワンなんです。そんな美人でもないのに、おかしいですね」

「ナンバーワンですか。それはすごいですね」

次は…彼女が語った“意外な夢”とは

元タクシー運転手、ライター 橋本英男

タクシーのハンドルを握って40年。その傍らライターとしても活動し、自著も複数ある。東京の交通事情に詳しい。

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