“痴漢”の証拠画像を撮影、顔が分かる状態でSNSにアップ! 個人による「私刑」は罪に問われる? 弁護士に聞いた
2023.7.16 LASISA編集部
犯罪現場などを目撃したとして、他者の顔が特定できる状態で画像をSNSアップするケースが散見されます。これは法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。弁護士に聞きました。
「電車内で痴漢している男がいた」「コンビニで万引きしている人を見た」――。そんなキャプションを付けて、個人の顔が特定できる画像や動画をSNSにアップする行為が散見されます。仮に犯罪の現場を押さえたものであるにせよ、一個人がその画像・動画をSNSに投稿する行為に問題はないのでしょうか? 芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。
肖像権、プライバシー権侵害の恐れも
Q.もし犯罪の現場を目撃した場合、その容疑者とみられる人物を撮影した画像や動画を、一個人がモザイク処理などをせずにSNSにアップすることは問題ないのでしょうか?
牧野さん「日本の判例として有名なものに、1964年の『宴(うたげ)のあと事件最高裁判決』があります。これは、元外務大臣の有田八郎が、三島由紀夫の小説『宴のあと』によりプライバシー権(私生活をみだりに公開されない権利)を侵害されたとして、謝罪広告と損害賠償を請求したもので、東京地裁が、日本で初めて『プライバシーの権利』を実定法上の権利として容認した事件です。
この判例に照らし、他人の画像をSNSにアップすることは『肖像権』あるいは『プライバシー権』の侵害になる可能性があります。これは、他人から無断で写真を撮られたり、撮られた写真が無断で公表されたりすることを禁止できる権利です。
これらの肖像権やプライバシー権は、制定された法律で認められているものではなく、日本の判例で認められている権利です。
さらに、個人が特定される場合で、本人の承諾なくSNSにアップされた場合には、個人情報保護法違反(第三者提供)にあたる可能性があります(法27条1項)」
Q.顔の画像をさらされてしまった人物が、本当に容疑者だった場合と、冤罪(えんざい)だった場合で、画像を投稿した人が抵触する法律は違うものになりますか?
牧野さん「冤罪だった場合には、名誉毀損(きそん)の『公然と事実を摘示し、その事実の有無にかかわらず、人の社会的評価を低下させた場合』に該当するとして、民事責任(不法行為による損害賠償責任)と刑事責任(刑法230条の名誉毀損罪、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金)を負う可能性があります。
一方、本当に容疑者で後に有罪が確定した場合には、『公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的がもっぱら公益を図ることにあったと認める場合』に当たりますので、『事実の真否を判断し、真実であることの証明があったとき』は処罰されません(刑法230条の2、公共の利害に関する場合の特例)」
Q.もし決定的な犯罪の瞬間を撮影してしまった場合、その画像・動画はどのように扱うのがよいでしょうか?
牧野さん「基本的には、警察に提出することが適切でしょう。『警察に提出すること』は、先述の“公然”に当たりませんので、名誉毀損罪は成立しないでしょう。個人情報保護法違反(第三者提供)についても、『法令に基づく場合』など(法27条1項1号・2号)として第三者提供が許されるでしょう。
しかしもし冤罪だった場合には、誣告(ぶこく)罪や個人情報保護法違反(第三者提供)が成立する可能性があり、さらに、人に刑事・懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴・告発・その他の申告をしたことで、虚偽告訴罪(刑法172条、3月以上10年以下の懲役)成立する可能性があります」
1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。
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