業界初「オルビス」の無人販売店舗 スタッフ常駐より「減収」でも、メリットの方が多いワケ
2023.7.11 LASISA編集部
「オルビス」が東京・グランデュオ立川 にオープンさせた、業界初の無人販売店舗。どのような狙いがあるのか、同社担当者に話を聞きました。
事前登録しなくても買える無人販売店
スキンケアアイテムを中心にビューティーブランドを展開する「オルビス」が2023年5月、無人販売店舗「ORBIS Smart Stand(オルビス スマート スタンド)」を東京都立川市のグランデュオ立川にオープンさせました。事前の顧客登録が要らない決済システムを導入していて、この取り組みは化粧品業界で初。利用客とメーカーそれぞれにどのようなメリットがあるのか、同社担当責任者に話を聞きました。
カメラが商品を検知、カンタン電子決済
JR中央線・南武線・青梅線が乗り入れる東京多摩エリアのターミナル駅、立川。改札にも直結する駅ビル「グランデュオ立川」1階の化粧品売り場の一角に5月、「ORBIS Smart Stand」グランデュオ立川店がオープンしました。
もともとあった有人店舗およそ53平方メートルを改装し、うち約7平方メートルが無人販売用スペースに、それ以外のスペースは商品テスターなどが並ぶコーナーになっています。
無人店舗スペースの天井にはいくつものカメラが設置されていて、来店客が売り場の商品を買い物かごに入れると自動で検知。セルフレジは電子マネーやクレジットカードで決済でき、実際に試してみたところ難なく買い物を済ませられました。
“売りたくても売れない”深刻な人手不足
オルビスがこうした店舗をオープンさせた背景には、販売職の人手不足という昨今の社会課題がありました。
新型コロナ禍で一時的に悪化していた人材需要が、コロナ禍の収束などにより一気に回復。帝国データバンクがまとめた「人手不足に対する企業の動向調査」(2023年4月)では、正社員・非正社員の人手不足割合は、過去最高を記録したコロナ禍以前の2018年冬に迫る勢いを見せています。
多くの業界で人材確保に苦慮する今、化粧品販売も例外ではありません。
オルビス店舗統括担当部長の石田龍太郎さんによると、同社にとってとりわけその傾向が強いのは、多数の求人が集まる首都圏や関西圏です。十分な集客ができているにもかかわらず、販売員不足により閉店せざるを得なくなった例もあると言います。
こうした状況を打開するため2021年、石田さんは無人決済システムを提供するJR東日本子会社のスタートアップ企業「TOUCH TO GO(タッチ トゥ ゴー)」に問い合わせ、導入を模索してきました。
「オルビスはもともと通信販売からスタートしたブランドではありますが、“店舗”というタッチポイントがあることでブランド認知が高まり、そのエリアでのメーカーシェアや売り上げにつながることが分かっています。しかし、人手不足のため新たな出店が難しかった。無人店舗の導入は、そうした問題に対する一つの解決策になるのではと考えています」(石田さん)
無人店舗の第1号店にグランデュオ立川店を選んだ理由は、2023年4月、同駅の「ルミネ立川」に別の有人店舗がオープンしたため。販売員に直接相談をしたい利用客はルミネ立川店へ誘導するなど、近接する両店で有人・無人対応のすみ分けを促しつつ顧客の反応を検証する狙いがあったのだといいます。
ユーザーのメリットは? 無人店舗に合った客
一方、利用する顧客側にとっては、どのようなメリットがあるのでしょうか。
石田さんによると、もともとグランデュオ立川店のリピーターだった利用客からは「購入方法が簡便になった」「人目を気にせず自分のペースで買い物できるようになった」といった反応を得ているとのこと。売り場は駅とも直結しているため、閉店間際などのわずかな時間に立ち寄っていくユーザーも増えたそうです。
また取材で訪れた日には、初めて来店したという新規客の姿も。SNSで話題を集めている「エッセンスインヘアミルク」や「オルビス リンクルブライトUVプロテクター」などの注目アイテムを見に来たとのことでした。
このように、購入したい商品が決まっている場合は特に、無人店舗は使い勝手がいいようです。友人とショッピングに来ていた30代の女性は「通販での配送を待てず、すぐにも欲しいときは特に便利ですね」と感想を話していました。
ただ、どの商品を買えばいいのかをその場で販売員に相談したいという利用客も想定し、店舗内にはオンラインカウンセリングを受けられる専用ブースが備えられています。カメラ付きのタブレット端末を通してオルビスのビューティーアドバイザーとオンライン通話ができ、商品選びのアドバイスを受けることができます。
無人化により減収でも、増益を確保
無人店舗にリニューアルしたことで、グランデュオ立川店の売り上げはどう変化したのでしょうか。石田さんは「有人店舗のときよりも売上額は減少しましたが、それは当初から想定通りです」と話します。「一方で人件費などが削減された分、店舗のランニングコストは4分の1で抑えられており、利益は上がっています 」。
同店では、有人店舗から無人店舗に切り替えるに当たって、在庫管理などの観点から取り扱い商品数を絞り、従来の半数以下の約90種まで減らしました。要は、固定費を圧縮した損益分岐点の低い店舗を出すことで、安定した収益に加えてブランド認知につなげるメリットがあるのだと言います。
今後の展開について石田さんは、「2号店以降のオープンも検討しています。実際、商業施設側からの引き合いはあります」と話します。“無人店舗”という話題性があることで注目を集めやすいほか、10平方メートル以下といった狭小の空きスペースでも出店が可能など、施設側のメリットもあるのだそうです。
まずは、2~3年で10~15店ほど展開するというのが当面の目標とのこと。人手不足が深刻化する今、こうした無人販売店舗は、オルビスだけでなく化粧品業界全体に広がっていくことも考えられます。
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