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“子どもができない体”と“妊娠”が交錯する「子宮恋愛」9〜10話、女たちの選択に見る痛みと決断

2025.6.18 北村有

「子宮恋愛」9〜10話を振り返る! ここに来てまさかの展開、心のよりどころだった山手もが、まきの心を苦しめることに……。

本当に好きだった?「子宮が恋をした」その先の迷いと揺れ

「子宮恋愛」(読売テレビ・日本テレビ系)「子宮恋愛」(読売テレビ・日本テレビ系)

 インパクトあるタイトルに反し、静かに切なく、人間の奥底にある欲望や不安を丁寧に描き出してきたドラマ「子宮恋愛」。第9〜10話では、ついに主人公・まき(松井愛莉)の妊娠が現実のものとして物語を揺るがし始め、感情の波が一気に押し寄せる回となった。夫と“子宮が恋をした”相手の間で揺れ動くまきの苦悩、そしてそれを繊細に体現する松井愛莉の演技が、SNSでも大きな反響を呼んでいる。

 まきが妊娠したと知ったとき、彼女は山手(大貫勇輔)にそのことを伝える決意をする。しかし、その直後に彼の口から語られたのは、彼がパイプカットをしていたという事実だった。

 それはつまり、妊娠した子は山手との子ではないということ。まきは瞬時に「この子は恭一(沢村玲)との子だ」と確信する。

 だが、それで物語が終わるわけではない。山手はバツイチではなく、まだ正式に離婚が成立していないことが発覚し、まきの心にはさらに深い動揺が走る。「あの人が既婚者だと知っていたら、最初から関わってなかった」……まきのなかで、愛と倫理のバランスが一気に崩れていく。

 極めつけは、まきの口から出た「山手さんのことなんか、好きにならなければよかった」という涙ながらの言葉。これは決して“本音”ではないだろう。好きだったからこそ、信じたかったからこそ、裏切られたと思ったときの苦しさと悔しさが滲み出ていた。

 松井愛莉は、この複雑な感情を押し殺すことなく、むしろ繊細に“言葉の揺れ”として表現しており、そのリアリティは視聴者の胸を締めつける。

社内に広がる関係の噂、「絶対に離婚しない」メールがもたらす恐怖

「子宮恋愛」(読売テレビ・日本テレビ系)「子宮恋愛」(読売テレビ・日本テレビ系)

 私的な関係が公の領域に浸食してくる怖さ。それもこのドラマの重要なテーマのひとつだ。まきと山手の関係は職場で囁かれ始め、ついには「どちらかを異動させるかもしれない」と上層部にまで波紋が広がってしまう。

 そんななか、会社に「絶対に離婚しない」と書かれた不審なメールが届く。差出人は不明。内容からして、まきに対する何らかの“警告”であることは明らかだ。山手の現在の妻が送った可能性、あるいは別の誰かの執着……。この「見えない圧力」はまきをどんどん追い詰めていく。

 そのプレッシャーは、まきの身体にも表れ始める。会議中に突然、激しい腹痛に襲われ、彼女はその場で倒れてしまう。妊娠という喜びや希望が、ここでは“恐怖”や“暴力”に近いものとして描かれているようにも感じられた。

松井愛莉が体現する、感情の揺らぎと壊れそうな決意

「子宮恋愛」(読売テレビ・日本テレビ系)「子宮恋愛」(読売テレビ・日本テレビ系)

 まきは確かに恋をした。それは“理性ではどうしようもない感情”であり、“子宮が恋をした”としか言えないような、説明のつかないものだったのかもしれない。しかしその恋は、現実の倫理、社会的な立場、身体的な限界という“壁”に阻まれていく。

 そんな揺れのなかで、松井愛莉は一貫して「弱さを抱えた強さ」を演じている。感情を爆発させるわけではないが、目線の変化や声の震え、立ち姿ひとつでまきの内面の崩れを見せてくる。とくに「子どもは恭一との子だ」と確信した場面での沈黙には、多くの思考や感情が詰まっていた。

 また、第10話では寄島みゆみ(吉本実憂)の存在が、まきの姿を照射する“鏡”として大きな役割を果たす。子宮を失い「手に入らないもの」を抱える彼女と、妊娠という“選択肢”を持ちながらも迷うまき。その対比は、女性が置かれる環境や身体のリアルを浮き彫りにする。

「子どもを持てる・持てない」という単純な二項対立ではなく、それぞれがそれぞれの“痛み”を持って生きているのだということが、この2人の女性からは伝わってくる。

「子宮恋愛」9〜10話では、“恋愛”や“妊娠”が決して一筋縄ではいかないことが突きつけられた。好きになったからといって、すべてが手に入るわけではない。望んだからといって、相手が応えてくれるわけでもない。そして、子どもを授かったからといって、必ずしも幸せになれるとも限らない。

 そんななか、まきがどんな未来を選ぶのか? それは、私たち自身の「正しさとは何か」という問いを見つめ直すことにもつながってくる。

 読売テレビ・日本テレビ系「子宮恋愛」毎週木曜深夜0:59放送

【動画】「子宮恋愛」(9〜10話)予告

 北村有

ライター。2019年に独立。主に映画やドラマ関連のレビューやコラム、インタビュー記事を担当。主な執筆媒体はtelling, / ぴあWeb / CYZO ONLINE / TRILL / LASISAなど。映画館と純喫茶が好き。

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